検定が出来るまでの30年Vol.6 年季明け

検定が出来るまでの30Vol.6 年季明け

内閣府認可財団法人認定 ウエディングプランナー資格

 入社して半年間、最初に配属されたのはホテルのアネックスだったが、そこはさすがホテルのアネックスで、宴会、レストラン、バー、ラウンジとホテルの料飲施設の要件は満たされていた。最初の1~2か月ほどは世にも稀な厳しいレストランでの研修で、その後は希望の宴会に配属された。宴会と言ってもホテルのような大規模なものではなく、100名ほどの宴会ができる会場が一つと最大10名ほどの会食ができる個室が3部屋ほどあるだけの小規模なものだった。

宴会と言っても、20名くらいの規模ならばby orderで当日予約を受けた。何度か経験して死ぬ思いだったが、この辺りは、大企業が密集しており、ほとんどが接待利用だったこともあり、土日にはほとんどお客様は来なかったので、日曜は完全定休、土曜日は半ドンに近い営業をしていた。しかし、宴会は、基本的にお客様の問い合わせがあれば、開店日に関しては、時間に関係なく予約を受ける。少しでも売り上げを上げるためだ。

ある土曜日の夕方、珍しく外資系企業から1本の電話が入り、受注したのは20名の宴会の予約だった。宴会と言っても、会食でしかも来館してから個々にby orderでメニューを決めるのだ。その日は、土曜日、レストランなど他のセクションもスタッフも少なく、宴会も私一人だけ。土曜日ということで配膳会の常備もいなかった。受付から電話があり、「20名の宴会だけどこれから受けられる?」というので思わず「ハイ」と言ってしまった。入社してまだ3か月足らずのころであり、正直パニック状態になった。しかも、全員外国人だそうだ。とりあえず、流しテーブルの20名のセッティングを行った。いざお客様が来ると、よく使ってくれる顔見知りの有名企業の外国人だったので、少しはほっとした。

「今日は一人?」と聞かれたので、ラッキーと思い、たどたどしい英語で「一人なので、若干時間を要するかもしれませんが、よろしくお願いします。」というと、「問題ないよ、今日は内輪の食事会みたいなものだから、突然で悪かったね」ということをおっしゃっていただき、一気に緊張と恐怖がほぐれた。

そうは言っても、そのお客様は、大顧客なので、ちょっとしたミスや失礼も許されない。少しほぐれた緊張感に再度襟を正すように気持ちを入れ替えて、まずは20名全員にメニューを配る。メニューを配った後に、上席からドリンクのオーダーを一人一人聞いていく。ステーションに戻り、必死にドリンクの用意をして、4名分ずつドリンクをもって5往復した。中に超常連客もいたので、その方は、「いつもの」って感じでオーダーしてくるので、ポケットの手帳に書いてあるドリンクのページを開き、その顧客のドライマティーニのレシピを見て、その店のオリジナルマティーニのレシピから、オレンジビターを入れず、シェイクではなくステアーで出すなど、ドリンクだけでも顧客がいると大変なことだ。

汗だくで、ファーストドリンクをだし終えると、こんどは食事のオーダーだ。ほとんどの人は、オードヴル、スープ、魚又は肉、デザート、コーヒー又は紅茶である。中には、スープと肉だけの人もいるし、肉と魚の両方を頼む人もいる。

一気に20人分のオーダーをとり、それを料理提供順に発注伝票にフランス語で書く。前に記したが、お客様用のメニューはすべて英語表記だが、調理場に通す通し伝票は、すべてフランス語で書かなければならない。なんという非合理的な方法だ。そう心の中で叫びながら、調理場にダッシュする。お客様のいる場所で走ろうものなら、何処からともなく足蹴りが飛んでくるので、表は早歩きで、裏導線はダッシュする。デシャップで、「宴会ですけど、オーダーお願いします」と叫び、出る順番にオーダーをフランス語で読み上げる。日本人なんだから、日本語でいいじゃん、と心の中で思いながら、日本語的フランス語で叫ぶ。もちろん、お客様の中でも、by orderなのでオーダー数が異なることがあるので、その説明もして出すタイミングを調整するようお願いする。

オーダーが終わるとまたダッシュで宴会場に戻り、個々人の料理にあったシルバーのセッティングをする。ほぼ、同時にセカンドドリンクのオーダーを受ける。セカンドドリンクを出し終えると、またキャスター付きの大きめのワゴンをもって、調理場に向かう。

調理場は、平日よりもスタッフが少なく5~6人の調理人であわただしく準備をしている。「宴会ですけど、オードヴルお願いします」と叫ぶと「馬鹿野郎、おせぇーよ」と怒鳴られる。「こちとら、20人を一人でやってんだよ、てめぇら5人も6人もでダラダラやってんなら、できた料理くらい持ってこい、この馬鹿どもが。」と心の中でつい下品に叫びながらも「すいません、次は早くするようにします」と言ってしまう。そうでも言っておかないと、冗談じゃなくて、本当に鍋とかフライパンとか飛んでくるからだ。

オードヴルが出ると、大変なのは、メインディッシュの後の下げ物の時だ。一人しかいないので、宴会場の壁際に、ステーションテーブルを普段より多くセットしているので、下げ物は、とりあえずそこにどんどん下げて徐々にデシャップに片付ける。本来のサービスから言うと、下げ物を宴会場内に放置するのはタブーだが、なにせ一人なので致し方ない。

ただし、サラダが出たときは少し手間がかかる。そこではサラダを作るのは、お客様へのプレゼンを含め、ウエイターの仕事だった。同様の意味で、スープはチューリンサービス(大きなシルバーのスープボールから取り分けるサービス)、スモークサーモンや鱈のスモークなどのカービングもウエイターの仕事であった。サラダのドレッシングは、3種類くらいしかなかったが、オーダーを取るときに、なるべく1種類にまとまるようにオーダーを取る。直径40~50㎝も木製ボールとオリーブオイル、ペッパー&ソルト、ワインヴィネガー、卵黄、オイルサーディーンなどなど、必要と思われるものをワゴンにセットして、お客様の前でドレッシングから作ってサーブするのだ。たとえ、接待の食事会でもコーヒーブレイクにいろいろ聞いてくださるお客様も多い。お客様の前での料理の演出は、こんなことでも結構楽しんでもらえる。個室などをご利用いただくお客様は、ほとんどがリピート客で会社の経費でご利用いただくケースが多いので、一人単価も7万円くらいになり、そのような場合の肉のサービスは、フランベワゴンを利用し、お客様の目の前でフランベして提供する。そうすることで、高級感も加わりホストのゲストに対する接待のヴァリューも上がる。

この一見から、私は宴会部門にいながら、宴会が入ってなく、レストランが忙しいときは、昼間だけレストランを手伝っていた。実際には、4名掛け21卓あるテーブルの8卓をレストランの支配人と私の2人で担当した。はっきり言ってその忙しさは、半端じゃない。

正直、レストランサービスがサービスの基本であることを痛切に感じた時期でもあった。8卓と言っても、ほとんどが、フルコースでメニュー内容は、グランドメニューからチョイスして決める完全by orderだった。その日の予約を見て、常連客がアサインされていたときは、あらかじめ「いつもの」飲物を頭に叩き込み、飲物のオーダー時に「○○様はいつものものでよろしいですか?」と自然に聞いてあげるとお客様の優越感や満足感が高くなり、自ずとリピートしてくれるようになる。一見古臭い手法のように思えるが、顧客作りには必要最低限、必要不可欠の手法である。

このような状態が、半年間ほど続いたある日のランチタイム終了後、夜の予約も早い時間から結構たくさん入っていたので、いつもよりも早い時間にディナーのスタンバイをしていた。この日は、宴会場の予約も少なかったので、レストランを手伝う予定だった。

スタンバイをしていた時、私の尊敬する支配人が突然「谷藤ーアレ持ってこい」と怒鳴るように言われたので、「ハイ」とそのアレを持っていくと、「やっとお前も一人前になったようだな。」といわれ、その翌日から、便所掃除も食事の準備も、すべての下済み仕事から解放され、サービスに専念できるようになったのだ。今までしてきた下済み仕事は、すべて同期のスタッフに引き継がれた。翌日からは、地獄のような日々から解放され、本格的にサービスマンの仕事に専念できるようになった。あたかも丁稚奉公が年季明けしたような天にも昇るような解放感で満たされた。どのようにスタッフに伝わったのかわからないが、先輩たちの態度が従来とは全く変わり、一人前のサービスマンの扱いとなった。先輩の中には、「よく我慢したな、おめでとう」と言ってくれる先輩もいて、目頭が熱くなったのを今でも鮮明に覚えている。耐え忍んで本当に良かったと思った。この時の苦労が、私の人生の基盤になったのかもしれないと思うと、半年間ぶん殴ってやると思っていた先輩に申し訳ないと思った。実は、先輩によっては、このようないじめのようなしごきが、いやな先輩もいたらしいが、一人前の人を育てるために仕事として自分をしかりつけていた先輩もいたようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

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