綿のように軽かった母

3ヶ月ぶりの秋の北海道の3日間の滞在は、最高の天候に恵まれた。特に最終日の穏やかさは、天変地異の前触れかのごとく、また気持ちが悪いほど穏やかだった。こんな穏やかな北海道は、生れてから19歳まで過ごした間に経験したことがないと感じるほどの穏やかさだった。

そして、こんな短期間に何度も北海道に帰ったことはいまだかつてなかった。

今年、90歳を迎える母が病院に入院している。

どんな時も、私のことを一番に心配してくれた母が入院し、ベットから動けない状態だ。もう入院してから、半年近くなり、前回行った時が、危篤状態で、今はそのときから比べると、とても元気に見える。

しかし、危篤状態と比べて元気に見えるだけで、決して元気とは言えない。その母の無償の愛を受けて育った私にとって、そんな母がいとおしく思えた。今年の春に行ったときは、あんなに元気だったのに、いつも、どんな時も化粧を忘れず、パーマをあてていた母が、今はその面影は全くない。

子供の私としては、とても辛く悲しいことだと思ったが、当の本人(母)は、多分私以上に辛く、悲しいと思っているに違いない。

小学校の六年生の時、私の髪の毛は今と違い、「猫っ毛」で、玉子に海苔という感じで、ボリュームがなく柔らかった。さらに直毛なので、腰がなくまとまりが無かったので、母にパーマ屋さんに連れて行かれ、パーマをかけた。

その翌日、学校へ行ったら職員室に呼ばれ、パーマをかけたことをひどく怒られた。その話を家に帰って母にしたら、母が学校へ電話をして、担任にきれいなのと汚いのとどちらがいいか、また、きちんとしているのとだらしないのとどちらがいいのかと正し、結果パーマをかけることは身だしなみだと説得した。

私は、正直その母の行動に驚いたが、どんな時も自分の味方だった母だったので、例え今どんな姿になっても自分の母に変りはない。自分は、休みもなく働いてきたことを母も知っているので、耳を口元にあてないと聞こえないほど、小さな声でしかしゃべることが出来ない母が、「お前も忙しいんだから、もう帰りなさい」という。

他の兄姉には、いつも「私が来ない」とぼやいてるらしい。母は、殆ど食事を食べなくなったので、母の好きなおたふく豆や果物を持っていったら、むさぼるように食べていたその姿をみて、看護師さんが驚いていた。

食べてすぐベットを平に出来ないので、時間が経って平らにした後、身体の位置を変えようと思い、背中に手を入れて持ち上げたら、綿のように軽かった。よく見ると身体全体が骨と皮しかなかった。

涙をこらえて、じゃあ、帰るねといい、病室を後にしようとしたとき、そんなやっと動かせる身体で、布団から手を出して、私に手を振っている。私は、2,3歩遠のいては3,4歩戻って手を振り、それを何度か繰り返してやっと病室を後にした。

私は、涙が止まらなく、歩行不全の私は転びそうになりながら、涙をぬぐいながら、断腸の思いで病室を後にした。

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