連載原稿67 対価以上のものを提供し続けてこそプロでいられる

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朝、会社に出かけ、その会社で仕事をするという形態が始まったのは、日本では150年前、実質世の中に定着し始めたのはたかだか100年ほど前であったようだ。

 

私はくも膜下出血発症以来、後遺症のため自宅が会社だが、以前は、通勤時間が往復4時間前後であった。

今考えると、なんと無駄な時間を過ごしたのだろうとあきれるが、そのときは、通勤は、睡眠の場でもあり、1日を冷静に振り返る反省の時間と考えていた。

改めてその通勤時間を合計してみると、20年間で約22,000時間にも及び、1日24時間で換算すると、約900日、約2.5年間、一日8時間勤務で年間100日の公休消化をしたと考えると、約10年間の歳月になる。

 

しかし、この経験をしたから今があることも真実で、過去の人生や経験を否定するものではないのだが、この膨大な時間は、経営的には無駄と考えざるを得ないであろう。この時間や経費をロスと考えると、家で仕事をするほうが効率的ということになり、仕組みがきちんとできていて、結果が出せるのであれば、そのほうが良いと思う。

 

私の協会IWPA国際ウェディングプランナー協会には、全国に70名以上のフリーランスプランナーがいるが、そのプランナー達は、まさに自宅での仕事が多く、乳呑児を抱えて仕事をこなし生計を立てている人もいれば、59歳にして親の面倒もみながら現役バリバリでビックリするほどのパワフルさを持ち、まさにフリーランスの成功者として人生を謳歌している人もいる。

2007年に「ワーク・ライフ・バランス憲章」が策定されてからかなり経つが、これからもその流れは加速していくのが自然なのだろうと思う。

 

IWPAにも、フリーランスプランナーになる方法についての問い合わせがひっきりなしだが、ここで、フリーランスで生計を立てて行こうとする若い人に、おこがましくも一言伝えておきたいことがある。

 

ブライダル関係の企業では、人手不足が進行しており、組織は、今後、崩壊するか寡占化するかの二極化の方向で進むように思える。そんな中で、フリーランスへの需要が増しているのは確かだが、生計を立てることの難易度が下がっていると勘違いする人も中にはいる。

 

先日、ある人が、紹介した会場の仕事を辞めたいと言ってきた。その理由が「その会場から学ぶものがないから」だというのを聞いて、私は、勘違いも甚だしいと思った。

 

仕事をして対価をいただくのがプロだが、そこでは、自分が与えたものと相手からいただいたものを比較して、自分から相手に与えたものが大きい場合に次の仕事につながるというのが道理である。そうして、この人間は優秀だという名声が広がり、それなりの給料や対価をいただいて、次の仕事をもらうという仕組みを作るのが、実はプロとして大切なことであるはずだ。

 

ところが、この人の場合、給料を貰った上に、その会場で自分が勉強することまで要求しているのだ。私から言わせると言語道断である。

現代は、何でも自分勝手に物事を考え、世の中で無責任に言われることを正論だと思い込み、自分の考えていることが常識だと勘違いしたり、自分の間違いも都合よく正当化したりする人が実に多いことに驚く。

 

物事やノウハウを得るとき、新入社員でなければ対価を払うのは当たり前、逆に、対価をいただけるのは相手に提供するからなのである。

もし、プランナーが新郎新婦に、「お客様から学ぶものがありませんので辞めます」などと言ったら皆びっくりするだろう。

 

サラリーマン社会でも、「会社から学ぶものが無い」というとんでもない不満を聞くことはよくあるが、そもそも、雇われて仕事をして対価をいただくということがどういうことかをもう一度よく考え直してみた方がよいかもしれない。

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