連載記事2016年4-1
ブライダルの歴史と変遷
ビフォーアフターを作ったバブル崩壊とビジュアル雑誌
人々の性格まで変えてしまった
バブル崩壊のビフォーアフターは、今までに何度か話題にしてきたが、日本にとっては大きな変革であった。私はサービス業のホテル業界でその時期を過ごしたが、直接肌で感じるほどその変化は衝撃的なものであった。バブル崩壊以降、人が荒(すさ)んでしまったことを実際に肌で感じた時、バブルという怪物の凄さを感じたし、バブル崩壊によって多くの人が荒んだ状況を見るにつけ、愕然とすることも多かった。
バブル期には、あんなに気前の良かった人も、人が変ったように後ろ向きになったり、あんなに人のことを優先して考える人が、自分のことしか考えない自己中心的な性格に変貌してしまったり、人は環境によってこんなにも変わってしまうのかと感じた時、人間不信になりそうな時もあった。それくらいバブル崩壊の影響力は大きく日本中を暗闇で覆い尽くしてしまったような気がした。
私は、ホテル馬鹿だったので、ホテルのことしかお話しできないが、日本中様々な面で激変した。バブル崩壊によって変化した最も大きなことといえば、やはり、終身雇用の崩壊による年功序列という習慣が無くなってしまったことだと思う。この終身雇用の崩壊が日本人に与えた影響は計り知れないものがあり、今もなおその影響は大きい。
バブル崩壊によるブライダル業界への影響
勿論、ブライダル業界への影響も多大なものがあり、最も顕著だったのが、媒酌人の激減であろう。ブライダル業界は、バブル崩壊開始の1989年から10年以上は隆盛時代だったと言える。それは、バブルの余韻を残しながら、団塊世代ジュニアが結婚適齢期を迎えた時期だったからである。ミレニアム婚といわれた2000年から2001年は、約80万組の婚姻数があり、団塊世代の結婚のピーク以来の第2の婚姻ピークを迎えたが、当時媒酌人のいない婚礼は珍しかったが、この後媒酌人の存在はどんどん減少し、現在では媒酌人のいる挙式披露宴は、全体の1%に過ぎない。
媒酌人とは。仲人(なこうど)とは。その役割。
では、ここで敢えて媒酌人の存在について理解することで、結婚式を行う意義も合わせて理解いただこうと思う。そもそも媒酌人は、雇われ仲人といわれていた。では、仲人とはどんな人なのだろうか。通常、仲人は世話好きの夫婦が縁談で男女を結び付け、結婚までたどり着くと、結納から結婚式で仲立ちをし、結婚式後は、2人の後見人として一生2人を見守るという大役を担う人である。だから、昔は盆暮れのご挨拶に、媒酌人のお宅に伺うのが習慣だった。そもそも披露宴は、親から子への人脈財産の継承であり、若い新郎新婦の生活を援護する人を確保するための儀式であり、今風にいうと新郎新婦の人生のサポーターを確保するのが披露宴の重要な意味である。その昔は、お見合いで結婚することが多かったが、今では恋愛結婚が多くなり中を取り持つこと自体の必要性が希薄になったことが仲人の減少の一因でもある。
しかし、結納や結婚式披露宴の時に媒酌人をお願いする意味とは、新郎が媒酌人の恩恵を受けるということだ。昔は媒酌人を依頼する場合は、新郎の会社で偉い人、偉くなる可能性の高い人を選ぶものだと親から教わった。
若い二人が、将来的に安定した生活をするためには周囲の人の助けが必要であると考えた。終身雇用という習慣の中で、会社の将来を有望視される会社の上司と媒酌人といういわゆる後見人としての特別な関係を作ることでその恩恵を被ることができるだろうという考え方である。
しかし、バブルの崩壊はこの習慣を根底から覆したのである。なぜなら、バブルが崩壊した後は、銀行が倒産したり、1部上場企業が年間に10数社も倒産したりする中で、それまでの終身雇用が崩壊すると同時に年功序列の慣例も崩壊し、企業内の下剋上が起こった。つまり、年功序列の崩壊は、下剋上を誘発し、実力主義の基に今日まで上司だった人が、翌日から部下になることなど珍しくなくなった。その結果従来の媒酌人の意味は失われ媒酌人が激減していったのである。
現在でも、媒酌人の従来の意味を重視している人たち、例えば、政財界の人たちや、自営業の次期社長などの結婚式は、未だに媒酌人の存在は多い。