連載記事5;本物のプロフェッショナルとは

今思えば、私の仕事人生の半分以上はホテルマンだった。ホテルウェディングは、少なくともバブル崩壊後の10年間すなわち2000年くらいまでは古き良き時代であった。その時代のホテルマンの意識は、ビジネスという観点からすると、非常にぬるま湯に浸かった状態であり、危機感や切迫感などなかったような気がする。しかし、逆にサービス業としては、プロの職人集団であったことは事実だ。

 

日本は、職人が国を支えてきたといっても過言ではない。しかし、時代が変わり、何でもこなせる人が企業で登用され、職人の時代からサラリーマンの時代になった。「何でも出来る人」厳密に言えば「何でも出来るように見える人」が業務を動かす人になってきた。私は、現代の若者は非常に器用な人が多いと思うし、能力も高いと思うが、聖徳太子やスーパーマンではない。実は、「何でも出来るように見える人」は、何にも出来ない。つまり、本当のプロではないのである。

 

色々な会場を見るにつけ、また話を聞いていると、現場にプロが殆どいなくなったような気がする。では、現場にプロがいなくなるとどんなことが起きるのだろうか。

前述したが、私は昨年くも膜下出血を発症し、現在もその後遺症で思うように歩けない。もどかしく、腹立たしく、いつもその症状と戦っている。その中で、物事には仕組みのようなものが必ずあって、全てがその仕組みによって正常に動いているという至って当たり前のことが身をもって理解できた。

 

例えば、一見平坦に見える道路でも、表面には必ず凸凹があるが、正常な人は意識せずに歩くことができる。凸凹を足の裏が感知して脳に伝え、脳はそれを受けて足の筋肉に指令を出し、前後左右に動かしてバランスを保っている。しかし私の脳は、くも膜下出血という異常事態でリセットされてしまい、一時期、指令を出すことが出来ない状態に陥り、また、1ヶ月間ベッド上で過ごしたために、筋肉は力を失ってしまった。そのために、私は、まっすぐ歩くというあたりまえのことにも努力が必要なのである。

 

婚礼会場のコンサルをしていると、業務がスムースに進まない、膨大な残業をしなければ業務が終わらない、という悩みをどの会場からも聞く。勿論、人員削減によることも有るが、問題はそこではない。それはまさに前述した脳と筋肉の関係にある。つまり、脳である責任者と筋肉である部下の連携が取れていないことと、筋肉の力、つまり業務スキルが低いことだ。

 

婚礼業務は、時間を要すことが多く、それを出来る限りの少人数で行わなければならない。私は、5つのホテル・式場で婚礼に携わり、うち4つのオープンに関わったが、業務量からすると、当時は現状よりむしろ人員は極端に少なかった。しかし、業務は至って円滑に行えていたし、残業も現状ほどではなかった。それは、脳と筋肉の両方が、各々に要求される高度な処理能力を持っていたことと、連携が取れていたことによる。

「これをやらせればだれにも負けない」と自負する専門技能をもつ職人集団からなる実働部隊は、各々の業務を的確かつ迅速に遂行し、中枢からの指令を円滑に行動に反映することができたのである。

 

今は、そのような職人集団を望むことはできないのかもしれないが、それであれば、システマティックな業務フローを確立すること、事務処理を効率よく行うための業務システムの助けを借りること、この両輪を揃えることで、業務を円滑に行うための土台をつくることはできる。そして、促成栽培の「なんちゃってプランナー」ではなく、しっかりとした婚礼の知識をもつプランナーを育てることである。年齢が若くても、正しい教育をすれば、経験の8割は知識でカバーできるのである。

 

 

 

 

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