連載記事60 文化や技術を伝承しビジネスする

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海外では、「幸せな新婚カップルは悪魔に妬まれる」といわれ、「悪魔除け」をキーワードに様々なしきたりが伝えられているが、それを商品化することはあまり行われていない。

 

一方、日本の婚礼は、「縁起を担ぐ」という言葉がキーワードになり、いろいろな言い伝えやしきたり・習慣が生まれ、それを伝承するために色々なルールが出来てきた。このルールが、装置産業として発展した日本ブライダルにおいて、ある一面では、海外に比べて婚礼がビジネス色を強くした原因ともなった。

 

日本において、一般的に「割れる、壊れる」など、婚礼にとって縁起の悪い言葉は、忌(い)み言葉とされ、婚礼のステージから排除されたし、披露宴が終了することを「お開き」と記すが、以前は、披露宴が楽しく、喜ばしいものであるようにと、司会打合せで「お披楽喜(ひらき)」と記した時代もあった。

また、引出物は、以前は、忌み言葉に触れない物として、壊れにくい漆器が多かったし、割れないように奇数個にするものであった。

 

しかし、バブル崩壊後はしきたりや習慣も大きく変化し、好みや実用性を重視し、以前は引出物として不適当とされたナイフやハサミなども商品として選ばれるようになり、今や記念品とお菓子の二品が多いのは周知のとおりである。

 

このような状況が生まれた背景には、大きく2つの要因が考えられる。

 

一つは、1989年から始まったバブル崩壊で、日本の終身雇用が終焉を迎え、1億2千万人総中産階級と言われた当時の、平均的であることを良しとした安定的な社会が、一気に低年収の不安定な社会へと急激な変貌を遂げたこと。

 

もう一つは、バブル崩壊後の1993年に、ビジュアルが紙面の70%以上を占める多くのブライダル情報誌が創刊され、手軽に情報収集が出来るようになった事や、文化や伝統よりもビジュアル重視の販促手法が市場を席巻したことだ。

 

そして、経済低迷で消費が冷え込んだ社会の中で、MASTだった挙式・披露宴がCHOICEへと変り、婚礼受難のステージへと移り変わった。

このような状況下で、ブライダルビジネスは、サービスの本質が失われ、特にここ15年間は、もうけ最優先的思考へと変化し、サービスを売る業種から物売り業種へと変化したのである。

 

例えば、本来、自分の席を探すツールとしては、「もぎり・席札」が一番わかりやすいはずだが、最近は、プランナーに「もぎり札」といっても見たことも聞いたこともないという人が増えている。「もぎり・席札」が普通にあった時は、席次表がなくても披露宴に支障はなかった。しかし、もぎり札は、お客様へのサービスとしての利便性では優れていても、もうけが少ない。もぎり・席札のセットは250円程度であるが、席次表は、800円以上である。もぎり札を廃止することで、必然的に席次表を販売しようというのである。

ところが、席次表も、最近は名前の上に肩書がなかったり、卓記号が無表示だったり、席次表本来のあるべき意味を全く理解していない。本来、席次表は、肩書をつけ、その方の立場・身分を表示するのが通常だったが、肩書は、確認の労力も大きく、コンプレインにもなりやすいため、もうけ最重視の現代においては、コンプレインが出やすいなら間違いの多い肩書を外してしまえば効率的と考えるのだ。

 

文化の伝承とビジネスという観点からブライダルを見た時、私はとても複雑な気持ちになってしまう。本来どっちを取るかではなく、両方取って文化や技術を伝承しつつビジネスもできれば、最高だと思う。このことを実現するには、プランナーの高いスキルが要求される。

ビジネスを優先するあまりに、本来お客様にとって良い文化やしきたり・習慣を失うことは、本末転倒ではないかと思う。

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