連載原稿63 「キリギリス型」化した企業は、魅力が失われる

アリをストック重視、キリギリスをフロー重視と考えるアリとキリギリスの話は、現代の社会、特に人材という観点からも、非常に興味深く、的を射た話だと思うので、前回に引き続きもう少し深く掘り下げてみたい。

おさらいになるが、今や知識や情報は、自分で覚えておく必要はなく、「貯める」から「使うその場にあれば良い」に変わってきているという考え方をキリギリスに例えているのだが、現代のビジネス環境の変化が速くなっていることが、キリギリス化に拍車をかけているようだ。

 

変化が少ない環境の中では、過去の経験に基づいて考えることによってよい結果を生むということが多いから、ストック型の発想が有利である。しかし、変化が激しく、常に新しい局面に向かいあうような世界では、ストックされた過去の経験や知識の価値は、相対的に下がってくると思われる。そのような社会では、知識や経験をストックすることに労力を使うよりも、知識や情報はフローととらえるビジネス手法の方が効率がよいという考え方が成立するのは、当然なのかもしれない。

 

しかしここで卵が先か鶏が先か、逆にしてストック思考とフロー思考を考えてみると、また別の見方ができる。

アリ型の思考は持てる者の発想であり、キリギリス型の思考は持たざる者の発想、ということである。何かを持っている組織や人は、必ず、すでに持ってる資産の活用を考える。今持っているものを最大限に活用し、できる方策を考えるということだ。

 

ブライダルの現状に置き換えて言えば、一定の地位を築いている会場はアリ型になり、その経験値、つまり会場数や実施件数が多いほど、ストック重視の思考が強くなる。つまり現状でうまくいっている企業は、その体制を維持しようと考えるから、基本的にアリ型の思考になる。

 

逆に、新規参入の会社など、ブライダル経験が無ければ、「何もないところから」発想するから、フロー型のキリギリス思考にならざるを得ないであろう。

 

さて、ここが、現代のビジネスで考えさせられるところなのだが、そもそも、今の社会では、アリとキリギリスはどちらが正しいのだろうか。言い換えると、アリはもはや古い考え方で、現代社会においては、「熟成したもの」は必ずしも必用ない、という考え方が正しいのだろうか。

 

これまでは、「良い商品」とは、長いスパンで計画され、十分に練られ、多くの人に良し悪しを判断され、ある程度の熟成期間を通じて販売できる商品となると考えられてきたが、現代は、熟成すること自体が、ある種必要のない時代なのかも知れないと考えてしまうこともある。

 

熟成などということをやっていたら、現代社会のスピードからは取り残されてしまうという指摘もあるだろう。ビジネスには、スピードこそが最も大切であるという考え方もあるだろう。しかし、私には、今のキリギリス的ビジネス手法は、所詮「付け焼刃」にしか思えないのである。

 

現代社会では、「感動」という言葉が実にお手軽に使われているが、感動は「本物」からしか生まれないと思う。思い付きやひらめきが本物ではないとは言わないが、本来、アリ型思考に属する私にとって、キリギリス型を否定はしないが、簡単に受け入れることは出来そうにない。

 

現代にはキリギリス型が合っているかも知れないし、それがトレンドかもしれないが、だからそれが良いということにはならないと思うし、個人はともかく、企業がキリギリス型になってしまったら、しかも、それが、ブライダル業界の多数を占めるようになってしまうとしたら、多分それは、何の深みもない、魅力に欠けたつまらないものになってしまうのではないかと思う。

 

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