連載記事29 本物しか人の心を動かせず

先日、息子が、大学の授業で墨が必要だという。普通の墨汁ではなく、墨を予め硯で磨ったものが販売されているはずだというのだが、息子も伝聞ではっきりしない。たまたま北品川商店街を散歩している時に、古い文房具店の前を通りかかったので、墨に対する何の知識もないまま、とりあえずそんなものがあるのか聞いてみることにした。

昔ながらの作りの入口の引き戸を開けて入っていくと、墨の棚にはたくさんの種類が並んでいてよくわからない。奥の方からのっそり現れた70歳を過ぎようかという店主に、「硯で磨った墨汁とはあるものなのか」と尋ねると、棚も見ず、言下に、ありますと言う。そして、「何に使うのか」「どれくらいの量が必要か」など、色々と質問した後、それならばと1品を選んでくれた。そして、店主が話してくれたのが、「これは一般の安価な墨汁とは全く違うもの。本物の墨にはニカワが入っており、水に滲まない。雨でも流れないので、例えばお坊さんが塔婆に書くときにもこれは使える。」という蘊蓄であった。
この話を聞いた時には思わず「ほぉ」と声が出たが、こんな話は、スーパーや百貨店では到底聞くことは出来ない。やはり、何十年もプロとしての薀蓄をしっかりと蓄積し、これが客を納得させて商品を販売する老舗の技なんだと改めて感じた。

最近はこのような店で買い物をすることがなかったが、これが老舗の意味であり、価格は決して安くはないが、満足感としては久々のもので、納得できる物を手に入れたという充実感があった。
北品川商店街は、八百屋、魚屋や花屋、和菓子屋、洋菓子屋、自転車屋といった小さな専門店が立ち並ぶ商店街だ。
それぞれに、この道一筋という強者(つわもの)が軒を並べ、その道のプロとして物を売っているのだ。個人商店で、年をとった頑固親父が店主であることが多く、どの店も決して愛想が良いとは言えない。サービスという意味では、勿論ホテルとは比べる必要もないが、満足度としてはどうかというと、愛想は悪いが価格が安かったり、価格は高いけれど薀蓄をしっかりと聞かせてくれて、買い物の楽しさというものを感じさせてくれ、ヴァリューフォーマネーとしては、非常に高い店が多いような気がする。

大型店に行くと、へその上で手を重ね不自然に丁寧なお辞儀をされて迎えられたりするが、心は通わず、温かみは感じない。有名なアミューズメントパークに行くと、にこやかで感じが良いが、ずっと見ていると、どうしてこの人たちは、こんなに長時間同じ笑顔でいられるのか不思議になり、むしろ機械的と感じてしまうことがある。つまり、作られたものには魅力を感じがたいのである。

私は、新郎新婦に対して、本当に喜んでもらおうとか、幸せになってもらおうとか、そういうふうに思うことが出来ないのであれば、ウェディングプランナーは辞めた方がいいと常日頃よく口にしている。
そして、プロとしてのスキルや知識を身に着けることを奨励している。
なぜなら、いくらりっばでも、心の無いものや作り物には、人は感動しないからである。人の心を動かせるのは本物でしかなく、その感動を生みだすことが出来るのがプランナーなのである。

冒頭に述べた文房具店主のプロの知識と話術には脱帽させられたが、本当のプロの仕事とはこうあるべきだということをまざまざと見せつけられた思いがした。たかが墨、されど墨。薀蓄一つが、こんなにも人を感動させられることに驚きすら感じた。
これが、プロの接客スキルであり、自分の扱う商品に対する愛情、そして人に対する本物の愛情のある接客だと感じたと同時に、これこそが、今ブライダルに欠けている重要な要素だと心底思った。

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