連載記事51 マーケティング手法の採用はユーザー感情を十分に考慮すべき

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グーグルが運営する「Gmail」は、今や世界で5億人もが使っているともいわれる世界一のフリーメールサービスだが、今年の4月1日で提供開始から10年目を迎えたということだ。

メールの世界で支配的な存在になったGmailは、誰でも無料で利用できるが、代償がゼロかというとそうではない。同社は、ユーザーに関する膨大な個人情報を得ることでビジネスを行っており、プライバシーを巡って米国や欧州では絶えず裁判沙汰になっていることをご存じだろうか。

 

同社の売上高は2013年10~12月期だけで約1兆7千億円に上るというが、それは広告収入である。

そして、その中には、メールサービスの提供と引き換えに、メールを自動的にスキャンして解析し、そのデータから、ユーザーが興味を持ちそうな広告を表示させるという手法がある。単語の使用頻度や文脈などを元にキーワードを探し、そのメールに関連付けた、そのメール内容にふさわしい広告を表示する。例えば、肌荒れの話をメールでやり取りすれば、スキンケア商品の広告が表示されるというものだ。

 

グーグルは、「ユーザーの役に立つ、各ユーザーの関心に関連した情報を提供するため」と言う大義名分をもって、メール以外にも、検索やグーグルマップといった別々のサービスから収集した情報をもとに、個々のユーザーの包括的なプロフィールを作成している。

 

マイクロソフトやヤフーなどの大手も、同様に、無料サービスの提供を行って何らかの利益を確保している。これらのハイテク企業では、ユーザー情報に基づくターゲット広告がビジネスモデルの主流になり、フェイスブックなどのソーシャルメディアもこの方法で収益を上げている。

 

You Tubeやニュースサイトなども、今や広告だらけで、無料で見ているのだから仕方がないと思うが、その手法に煩わしさを感じたことのある方も多いのではなかろうか。

 

これらは、リマーケティング広告もしくはリターゲティング広告と呼ばれる広告だ。ユーザーが、一度広告主のサイトを訪問したが購入に至らなかった人を識別し、一定期間追いかけまわして広告を表示させる。

 

広告主からすれば、一度自社サイトを訪問してくれた人は、少なくとも自社商品に関心があったわけで、広告効果が高いと考えられる。

 

企業が個人情報を収集する場合、そのことを顧客に通知する義務があるが、長々と書かれた利用条件やプライバシーポリシーにきちんと目を通すユーザーはほとんどなく、機械的に「同意」ボタンを押してしまうのがほとんどであろう。私達はこうして、知らぬ間に趣味嗜好から行動パターンに至るまでの詳細な個人プロフィールを作成され、利用されているのである。

 

このような現実を考えると、恐ろしくなるが、無料の物はその代償をどこかで払っており、「タダより高いものはない」ということわざの通りである。利用する側も、無料サービスの利便性と、自分のプライバシーの重さをはかりにかける必要性が高まった時代になったと言えよう。

 

また逆に、広告を出す側としても、考えなければならないことは多い。

こういった手法は、販売商品によりけりだと思うし、最初は、確かに効果があったり、せいぜいどうして表示されるのだろうと不思議に思われたりする程度であっても、それが意図的手法だと分かると、消費者には「またこの広告か」と、煩わしさや不快な感情を持たれ、逆効果ということも十分に考えられる。

 

現代は、様々なマーケティング手法が生み出され、商品化されているが、そのハイテクさにすぐ飛びつくことはせず、しくみをよく理解し、ユーザー感情を十分に考慮したうえで採用しなければ、効果が得られないばかりか、落とし穴が潜んでいることも多いので注意が必要である。

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